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ベルリンへの長い道
ベルリンへの長い道 ヘルムート・シュテルン

 ベルリンフィルハーモニーのコンサートマスターとして高名なヘルムート・シュテルン。彼の数奇な運命を描いたのが『ベルリンへの長い道』です。
 ユダヤ人としてドイツに生まれた彼は、第二次世界大戦に巻き込まれ、さまざまな苦難の大波にさらわれていきます。中国へ流され、そこからイスラエルへ、そしてアメリカへと、運命の大波は彼を連れていきます。最後にはドイツに戻り、ベルリンフィルの一員となる壮大な物語です。

 戦争がいかに残酷であるか。
 戦争とは、いかに人の命や心を弄ぶかを、痛切に考えさせられます。
 このような人生を歩んだ人が奏でるからこそ、当時のベルリンフィルには深い音楽性があったのかとも感じてしまうほどです。
 彼の経験が創り上げた魂の響きは、やはり人の深いところまで入り込むのではないかとも感じさせられました。戦争のような苦難のなかでこそ、ほんものの感動が生まれるという逆説的な真実を突きつけられるようにも感じました。

 わたしは時々、こんなふうに考えることがあります。
「マーラーやショスタコーヴィッチの音楽を理解することは、じつは不幸なことではないだろうか」
 マーラーやショスタコーヴィッチの音楽には、深い悲しみや孤独があります。それに同調したり、共鳴したりすることは、じつは不幸なことではないかと感じるのです。
 いっぽう、そうした深い苦悩の体験を経ずして、ほんとうの感動は与えられないのではないか、と思うこともあります。
 ヘルムート・シュテルンの物語は、まさにそんな人間の不思議な本質に迫ってくれます。
 わたしの人生は、彼のような音楽家が奏でる音楽に、心打たれるようにわたしを創りました。それが幸せかどうかは別として、わたしはシュテルンが一員として参加するベルリンフィルの響きを、これからも聴き続けることでしょう。

 音楽好きでない方でも、きっと得るところが多く、引き込まれる物語です。
 ぜひお読みください。
Berlin