青年は荒野をめざす by 五木寛之


 “青年は荒野をめざす”という小説を、37年ぶりに読みました。
 先日、五木さんの“林住期”という本を読み、ふと読み返してみたくなったからです。

 林住期のブログにも書きましたが、高校生の頃わたしの周りには、読書や音楽鑑賞の好きな友人たちがたくさんいて、よく読んだ本や聴いた音楽について、話し合いをしたものです。

 そんな友人たちは大きく二つのグループに分けられました。
 ひとつはクラシック音楽を好み、古典と呼ばれる外国文学を中心に読んでいた友人たち。もうひとつは、ロックを好み、エンターテインメント性の高い文学作品を好んだ友人たちです。

 クラシックが好きな友人たちに人気があったのは、ブラームスやベートーヴェン、そしてモーツアルトといったところ。
 ロックを好む友人たちに人気のあったのは、BST(Blood, Sweat, and Tears)やキャロル・キング、レッド・ツェッペリン、ビートルズあたりだったでしょうか。そう、“IF”なんていうロックグループもけっこう人気がありました。
 古典文学を好きな友人たちが夢中になったのは、ドストエフスキーなどのロシア文学、ヘルマン・ヘッセなどのドイツ文学が多かったように記憶しています。
 直木賞的な作品が好きな友人たちに人気のあったのは、アガサ・クリスティなどの推理物、そして五木寛之に代表される日本の流行作家たちの作品でした。

 わたしは文学も音楽も、どちらのジャンルも読んだり聴いたりしていました。そのため、どちらのグループとも親交があり、珍しい存在だったかもしれません。クラブ活動も、水泳部で泳ぎながら、合唱部で歌っていたりしました。

 あれは高一の時です。
 クラスのかなりの友人たちが、五木寛之を話題にした時期がありました。
 そのため、何人かで異なった五木作品を購入し、回し読みしたりもしました。五木さんの作品に傾倒した友人たちは、一応に頭が良く、スタイリッシュな美形が多かったようにも記憶しています。現在は医師として成功したり、会社経営者として成功している友人たちが、読みふけっていました。
 当時、わたしはそれほど五木作品にのめり込みはしなかったのですが、周りに影響され、今でも記憶に残っている作品に“青年は荒野をめざす”、“蒼ざめた馬を見よ”などがあります。

 そんな記憶から、“青年は荒野をめざす”を読み返してみました。下の写真は、現在医師となっている友人から、わたしが当時借りて読んだ本の表紙です。

 今読んでも、とてもおもしろかったです。
 そして、いくつかのことに気づきました。

   Seinenn

 まず、わたしは高校時代、「高校を卒業したら、世界旅行に行きたい!」と思っていたのですが、そんな発想に至る上で、この作品が力を持ったに違いない…ということ。
 それから、ちょっと恥ずかしいのですが、二十代のとき、外国人女性に積極的にアプローチした時期がありました。そんな行動の背景にも、この本の影響があるのではないか…ということ。

 本の内容をとてもよく覚えていたことにも驚きました。
 一度しか読んだことがないのにもかかわらず、次から次へとストーリーを思い出しました。
 そして、52才の今でも、とても楽しむことができました。

 若い頃のわたしはまさに、この本に出てくる若者のように、荒野をめざしていたように思います。
 日本を飛び出し、スキーという世界のなかで、さまざまな可能性を追求してきました。そして、そんな世界がそのまま今の自分につながっています。

 本を読んで、かつては感動しなかったところですが、今回、特別心に響くところがありました。
 それは、登場人物でプロフェッサーと呼ばれる老年のニートのような人物が発するこんな言葉です。
「わしは、家庭や、地位や、友人や、それらすべてを捨てて姿を消した。その時は、もう自分の人生は終わってしまったような気がしてたんだが…」

 プロフェッサーはこう続けます。
「だが、一人になってみると、またそこには全く別な人生がひらけるもんだ。新宿にやって来て、わしはマスター夫妻や、竜ちゃんと親しくなった。ジュン君ともな。………今度ニューヨークへ渡れば、また別な生活がはじまるだろう。こう考えてみると、人生なんてものは二度も、三度もやりなおしがきくものだな…。………若い時はことに、これでおしまいだなどと考えたがるものさ。だが、そうじゃない。人生は何度でも新しくなる。青春は、その人の気持ちの持ちようで、何回でも訪れてくれるんだよ」

 そして、物語の最後で、この浮浪者のような老人が、低い声でこう呟くのです。
「青年は荒野をめざす…」

 年齢的な若者が荒野をめざすだけでなく、荒野をめざす精神的若者がいるというところに、52才のわたしは感じるところがありました。そんな意味で、わたしはまだまだ荒野をめざす若者でありたいと願っています。

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