Sibelius     2007年5月3日

 ここ二週間ほど、わたしにしては、たいへん珍しい作曲家の音楽を聴いています。
 タイトルになっているシベリウスです。

 クラシック音楽を好きになった頃、有名な曲なら手当たり次第、何でも聴いた時期がありました。もしかしたら、シベリウスを真剣に聴くのはそれ以来のことかもしれません。

 聴いてみると、ずいぶん心に残っている曲がありました。
 “トゥネラの白鳥”や“悲しいワルツ”など、たいして聴いたことがなかったにもかかわらず、心の深いところで覚えていました。特に“トゥネラの白鳥”が奏でる、イングリッシュホルンの旋律を聴いたとき、懐かしいような、ふるさとに帰ってきたような、不思議な孤独感に襲われました。
 トゥオネラとはフィンランドの叙事詩“カレワラ”に出てくる“黄泉の国”のことだそうです。みごとな音楽です。 

 心に残っていた“トゥネラの白鳥”や“悲しいワルツ”だけでなく、シベリウスの曲の多くから、日本や東洋にも通じる寂寥とした情感を聴くことができるような気がします。
 交響曲第6番や7番など、仏教的なファンタジーの世界にも通じるのではないでしょうか。

 今回、わたしが聴いたのは、カラヤンやバルビローリ、そしてコリン・ディヴィスのCDでした。
 カラヤンでいくつかの交響詩と交響曲5・6・7番。
 バルビローリで交響曲5番と7番。
 サー・コリン・ディヴィスで交響曲7番とクレルヴォ交響曲。
 7番はほんとうに素晴らしい曲だと感じました。

 評判の高いベルグルンドはほとんど聴いたことがありません。
 そう思って、何気なくシベリウスのCDをネット上で探しはじめました。
 驚きました。異常なほど安いCDが、たくさん発売されているのですね。シベリウスに限らず、驚くような値段のCDをたくさん見つけました。たとえば、トスカニーニのベートーヴェン交響曲全集が3000円くらいでありました。演奏家を問わなければ、モールアルトやベートーヴェンのピアノソナタ全集ですら3000円くらいで手に入ります。ブラームスの交響曲全集なら2000円です。

 クラシック音楽は人類が築き上げたもっとも美しい芸術の一つ。
 それが、…たとえばトスカニーニのベートーヴェン全集が…、3000円くらいで手に入る。それがいいのか、悪いのか、わたしにはわかりません。
 しかし、うまく利用すれば、これほど安い買い物はないと言えるでしょう。



 精妙さと寂静感の漂うシベリウスの音楽。
 写真で見るシベリウスはいつも難しい顔をしていますが、ほんとうは社交を楽しみ、よく笑っていたそうです。
 加えて、人間的な欲望も強かったようで、一生借金に追われた生活だったということです。

 借金といえば、天下の借金大魔王ワグナー。
 人間的欲望といえば、それに振り回されたモーツアルト。
 彼らの創った音楽が、どこかでそんな彼らの実体と、カウンターパンチを成していることに気が付きます。
 借金取りに追われていたワグナーが、音楽の世界遺産ともいえるバイロイトを残し、ヒットラーだけでなく数々の人間に、思想的影響を与え続けています。ワグナーの音楽がインスピレーションを与えなければ、ヒットラーの存在もあそこまで巨大化しなかったに違いありません。
 また、人間的欲望に振り回されたモーツアルトだからこそ、人間のもっとも純粋な喜びや哀しみを、あれほどまでみごとに表現できたのでしょう。

 きっと、わたしが聴く音楽も、わたしの日常とカウンターを成しているような気がします。
 しばらくシベリウスを聴き続けそうなこの頃です。
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