Radu Lupu の音楽
2009年1月20日

 ラドゥー・ルプーのコンサートに初めて行ったのは、17才の時だったでしょうか。たしかそれから10代で二回、20代で二回ほど行ったと記憶しています。今、わたしがいちばん実演で聴きたいピアニスト。それがラドゥー・ルプーです。
 ピアノのコンサートで、ルプーほど感動した体験はありません。
 彼によってピアノという楽器の奥深さを教えてもらったように思います。もし高校一年の時に聴いていたなら、本気でピアニストをめざしたかもしれないと信じられるほどです。

 もう30年も前のことですが、彼のコンサートで感じた彼の特色は“音色"でした。
 「音色」という言葉そのもの…。ほんとうに音の色が変わるのです。特にピアニッシモで、がらりと音色が変わる時、それが心に突き刺さったり、心を揺るがせたりしました。音楽というものが、これほどの何かを音に込めて運ぶことができるのかと驚かされました。
 音色という言葉が、文字通り現実のものであることを知らされました。
Rupu
 近頃、そんなラドゥー・ルプーのベートーヴェン協奏曲集を買いました。
 するとそこに「ルプーは、レコーディングを行わないと宣言した」と書かれていたのです。残念でなりません。しかし、同時に素直に「そうだろうな…」とも感じました。
 彼の音色の変化は、CDに納められないからです。

 CDで彼のブラームスピアノ協奏曲1番を聴くと、彼のピアノは決して美しい音には聴こえません。
 ベートーヴェンのソナタも他のCDも、彼の魔術を伝えてはくれないのです。あれほど美しく感動的だった月光ソナタも、CDで聴く限り凡庸に感じます。音の魔術が消されているのです。もしわたしがルプーの実演を聴いたことがなく、CDのみで知ったとしたら、彼はどうでもいいピアニストの一人でしかなかったでしょう。しかし、実演のルプーはまさしく魔術師であり、多くの方が呼ぶように「世紀のリリシスト」なのです。

 もしわたしが本人だとしたら、大切なものを伝えてくれない「CD録音」は、まるで自分を汚すもののように感じてしまうかもしれません。

 今回買ったベートーヴェン協奏曲のなかで、3番から彼の素晴らしさの片鱗が覗いています。
 またリジェンドシリーズとしてリマスターされたいくつかのCDから、そんな音色の変化を少しは感じることができます。

 わたしはブラームスの1番が好きなので、彼にもう一度録音して欲しいですね。
 いつか録音技術が進み、録音に氣のようなものを籠められたり、意志のようなものを籠められたりできるようになったら、ルプーも再録を決意してくれるかもしれません。
 そんな日が来ることを、心から期待したいものです。
 そして、ルプーと自分が元気なうちに、これから彼の実演を何度も聴きに行きたいものです。

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