FRIEDRICH GULDA

Mozart_Sonatas Mozart Birdland

 気になって仕方がないという人がいます。
 わたしにとって、そんな人の最たるものが、フリードリヒ・グルダでしょうか。
 好きとか嫌いとかでなく、とにかく気になる人です。
 グルダはすでに亡くなってしまいました。わたしの誕生日の翌日になくなったので、そのニュースをよく覚えています。
 ジャズピアニストの日本人女性と結婚して、親日家としても知られていたピアニストです。

 わたしはモーツァルトのピアノ協奏曲が好きなので、たくさんの演奏家によるCDを聴いたり、演奏会に行ったりしてきました。しかし、グルダを超える演奏をまだ知らないのです。いつか、グルダ以上に感動できる演奏に巡り逢いたいと願っていますが …。

 モーツァルトというのは不思議な作曲家で、意図的な音楽作りを受け付けないところがあります。あくまでも自然な流れを強要し、作為を受け付けないのです。たとえばポゴレリチのモーツァルトはたいへんおもしろいのですが、ヘブラーほど酔えないところがあります。しかし、グルダのモーツァルトに酔えるというのは、それもまた不思議な話です。なぜなら、グルダは、たいへん屈折したピアニストなのですから。

 「クラシック音楽はすでに死んでいる」という意味の発言をしたこともあって、「ジャズこそが素晴らしい」という発言をしたと伝えられます。よく引用される発言は、「現代世界はジャズを求めているのであって,死んだ作曲家たちではない」というもの。

 彼のDVDのタイトルは「So What!」
 「だから、何だって言うんだよ」とでもいったところでしょうか。まだDVDを観たことはないのですが、ぜひ観て、聴いてみたいDVDの一つです。

 グルダは死んだふりをしたこともあります。
 自分で、自分が死んだという情報をマスコミに流したのです。グルダの死が大いに話題になったところで、生き返ったという設定のも とコンサートを開きました。

 厳しいクラシックピアノの世界で育てられ、ウィーンの三羽がらすと呼ばれる一流音楽家となり、発言が取り上げられるように なると、今度は自分が進んできた道を否定するような発言を繰り返し、それでもなおクラシック音楽を弾き続けたピアニストです。

 わたしは彼のベートーヴェン全集が好きです。
 そこには生き生きとした感情が流れ、音楽と精神が躍動し、クラシック音楽が死んでいないことを如実に感じさせてくれます。
Gulda
 近頃、彼の「グルダ ノン・ストップ」というCDを聴きました。
 彼自身の作品から、ドビュッシーやショパンの入った実演です。
 これを聴くと、グルダは音楽を愛していたことが実感できます。
 愛し方は変則で、不器用なところもあったかもしれませんが…。
 「グルダ ノン・ストップ」は、クラシック愛好家にぜひ聴いて頂きたいCDです。

 「ノン・ストップ」のなかで、彼の音楽は力強く流れます。
 そのため、過去をふり返るように停まる内省的な音楽の場合、うまく表現できないところも出てきます。しかし、音楽自体が生き生きと流れる時、素晴らしい躍動と命を感じさせてくれます。

 ケンプの過去をふり返るようにしばしば停まる音楽とは異質ですが、ほんとうに素晴らしいものです。

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