Hokkaido

 今日は2008年7月14日です。
 近頃、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をよく聴いています。
 一週間ほど前、伝票を整理しながらベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴きはじめ、家にあるその曲のCDを、ほとんど聴いてしまいました。
 何種類ものベートーヴェンを聴いているうち、他のヴァイオリン協奏曲も聴いてみたくなり、チャイコフスキーやメンデルスゾーン、シベリウスなどを聴き、しばらくブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴いていました。ブラームスの録音はベートーヴェン以上に所有しているため、数日を費やし、ふたたびベートーヴェンに戻ってきたというわけです。

 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲には思い出があります。
 大学の時、自動車で聴いた唯一のクラシック音楽だったからです。
 わたしの車に乗った後輩が、「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲ですか。いいですね」と言ったのに対し、「じつは、たいして好きじゃないんだよ」と応えたことを今でも覚えています。

 わたしはふつう運転しながらクラシック音楽を聴きません。理由は大事な個所がエンジン音に消されてしまったり、運転に心を盗られ、集中して音楽を聴けなくなったりするからです。もしくは音楽に集中して、運転がおろそかになるのが恐いからと言ってもいいでしょう。
 しかし学生時代、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はBGM程度にしか考えていなかったので、運転中に聴いたのです。当時、とても気持ちが良い曲だけれども、それほど重い意味のない曲と考えていました。
 そんなイメージを変えてくれたのは、右に挙げたシゲティの演奏です。
Szigeti シゲティを聴いてから、この曲に深い意味を感じるようになりました。

 先日、伝票整理をしながら昔のようにBGMとして聴こうと、カラヤン&ムターから聴き始め、ヒラリー・ハーンに移りました。どちらもCD発売当時、まるで芸能界の新人スターのように扱われた演奏者です。
 彼らの演奏を聴きはじめ、しばらくすると本来の曲想に惹かれました。そして真剣に聴きたくなり、シェリングを聴き、クリスチャン・フェラスへと進みました。やはり、この曲を表現するためには、人生経験が必要だと感じたのです。

 それまで、わたしの記憶のなかでベートーヴェンの協奏曲は、シゲティとシェリングが圧倒的に素晴らしい演奏でした。ところがこの時、フェラスの演奏が心の深いところに響いてきました。
 伸びやかな音。芯が通りながら、繊細な心の震えを伝える演奏。ほんとうに聴き惚れました。

 あまりにも感動したため、フェラスのブラームスも聴いてしまいました。こちらも素晴らしいです。
 やはり、時代や経験で、自分が反応する演奏が変わっていくものですね。
 ベートーヴェンもブラームスも、音が美しく、震える心のひだを描く演奏。それでいながら、感傷的な深みにはまらない意志を感じさせる演奏です

 フェラスは晩年、アルコール依存症に陥ってしまったと聞きました。そして、49才という若さで自殺したとも聞いています。詳しい事情は知りませんが、きっと心の繊細な人だったのでしょう。ブラームスでもベートーヴェンでも、心に突き刺さる音が、随所に響きます。わたしは彼の演奏をそれほど聴いていないですし、彼の人となりも知りませんが、ベートーヴェンとブラームスの協奏曲2曲だけでも、歴史に名を残す名演と感じます。人類に残された宝の一つであると感じます。
 チャンスをみて、残された彼の他の演奏も聴いていきたいものです。

 話はブラームスに移りますが、彼のコンチェルトは、相当な覚悟がないと演奏できない曲なのではないでしょうか。
 ヴァイオリン協奏曲だけでなく、ピアノ協奏曲二曲も同じこと。もし自分が演奏家だったら、一生に数回しか耐えられないほどの決心と覚悟を持って挑む曲だと思います。スキーに例えたら、初めての二回宙返りや、三回宙返りのようなものかもしれません。
 技術レベルだけでなく、表現方法やオーケストラとの掛け合いなど、すべてに圧倒的力量を要求される協奏曲たちだと感じます。
 そのせいでしょうか、ブラームスのヴァイオリン協奏曲には名演奏がたくさんあります。
 現在、家にある好きなCDを挙げると、まずオイストラフとクレンペラー、そしてシゲティ&メンゲス。ヌヴーのライブ録音も素晴らしく、緊張感と意気込みにあふれています。ただし、録音が古いため、音やライブ録音特有の欠点が気になる方にはお薦めできません。しかし、何種類ものCDをお持ちの方には、ぜひお聴き頂きたいものです。
 オイストラフとセルも素晴らしいですし、シェリング&モントーや、シェリング&ドラティも好きな演奏です。
 ムター&カラヤンも忘れてはいけませんね。これはベートーヴェンの二年後に録音されたもので、その二年間にムターが大きく成長したことを感じられる録音となっています。

 ここまでに挙げたCDのなかでは、上記のムターがもっとも新しいものですが、それでもすでに25年以上が経過しています。それ以後の演奏も聴いていないわけではないのですが、なかなかわたしの心を捉えてくれないのはなぜでしょうか。

 わたしは、これまでシゲティとシェリング一辺倒でした。しかし、これからクリスチャン・フェラスもわたしの大好きな演奏者となりそうです。
 また、ベートーヴェンを聴き直し、再発見した演奏家が、もう一人います。
 シュナイダーハンです。
Schneiderhan ずいぶん長い間、彼のベートーヴェンを持っていましたが、あまり記憶になかったヴァイオリニストです。しかし、今回改めて聴いて驚きました。この録音はほんとうに素晴らしいです。ヨッフムとベルリンフィルという組み合わせも素晴らしく、ぜひ聴いて頂きたいものです。
 フェラスと共に再発見させていただきました。
 ようやくわたしのレベルが、彼らを理解できるようになったと云えます。
 大きな感動を与えていただきました。
 これからも自分の人生に、こうした嬉しい驚きが、たくさん潜んでいることを祈りたいものです。
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