Lately what I am thinking and doing (2)
最近、よく考えること
 近頃、わたしはよくグラブについて考えています。
 グラブとはスキー(もしくはスノーボード)でジャンプし、空中でスキー(もしくはスノーボード)のどこかを掴む演技です。ニュースクールと呼ばれるスキーヤーたちにとって、グラブはとてもカッコイイもののようです。彼らはそれをスタイリッシュという言葉で呼びます。Taicyo_D_Spin
 このグラブポジションをおこなうため、タックポジションと呼ばれる姿勢が重要視されます。つまり、タックポジションを練習し、それからグラブをおこなうのです。そして、この方向性はニュースクール以前の方法(フリースタイルスキーの方法)の反対を行くものです。


 
わたしの尊敬する河合隼雄さんはよく日本人が持つ「徒党を組む性癖」について言及します。河合さんによれば、日本の各団体や業種にはそれぞれのスタンダードが存在し、それぞれにそれぞれのスタイルが強く存在しているということです。
 どうもニュースクールについても、同じことが言えそうです。
 あくまでも「自由に、個性を生かして」と主張するニュースクールですが、現在は非常に狭い枠にはめられた自由と個性のように感じられてなりません。


 
わたしはジム・モランが世界で初めてアイアンクロスヘリを成功させたブリッケンリッジのワールドカップに、コーチとして居合わせました。あのアイアンクロスヘリが、ニュースクールのスタート地点となりました。あの時、観客と選手たちが感動したのは、ジム・モランが新しい分野を開拓したからです。それは今までに存在しないスタイルで、しかも非常に美しく、未来へより大きな可能性を感じさせるものだったからです。
Listel_Air_Fantasy ページ上の写真はトップニュースクーラーの一人である近藤信のDスピンと呼ばれるジャンプです。また左の写真はわたしのバックレイアウトです。

 
わたしにはどちらも素晴らしいジャンプに見えるのですが、どうでしょう。
 わたしはあらゆる分野や枠を超え、それぞれの個性を認め合うことの方がずっと楽しく、また明るい未来へつながることのように思えるのですが、みなさんはどうお考えですか?
 ちなみに物理学的に考えると、「ひねり宙返り」とニュースクールの「オフ・アクシス・ジャンプ」は微妙に異なっています。しかし、それは大きな差ではありません。基本的にはどちらにも難しさがあり、どちらにも簡単さがあります。あえて「オフ・アクシス・ジャンプ」と「ひねり宙返り」の難度を比べるなら、ニュースクールの720度が、宙返りの一回ひねりと同程度の難度になるのではないでしょうか。そして、どちらにもスタイルは存在しています。
 ちなみに近頃、わたしはグラブポジションを練習しています。ヒザに問題があるため、苦労していますが、新しいスタイルから新しい喜びを感じています。
 グラブにはグラブの快感があり、モーグルジャンプにはモーグルジャンプの魅力が、またエアリアルジャンプにはエアリアルの喜びがあります。そのどれかを特殊に高く評価することは人種差別と同じ事ではないでしょうか。
 より大きな世界に当てはめてみるなら、スキーの各分野にはそれぞれの魅力があるということ。もっと大きく考えるなら、それぞれの国にはそれぞれの魅力があり、それぞれの人種にはそれぞれの価値観があるということ。わたしたちはあくまでも排他的にならず、それぞれの差異を認め合い、それぞれの意見や価値観を尊重し合うこと。それこそが大切で、価値があり、もっともスタイリッシュなことだと、わたしは信じています。
 比較することは競争であり、そこからは順位付けが生まれてきます。しかし、ベートーヴェンやモーツアルトなど歴史的音楽家の生み出した曲が、比較を超えているように、ほんとうに完成され、磨かれた演技は競争を超越しています。わたしも、比較や競争を超えた演技をめざしたいと願っています。

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